電子ジャーナル
地域安全学会論文集No.34 (電子ジャーナル論文) 2019.3
投稿日:2019年3月29日
著者: | 新家 杏奈 |
共著者: | 佐藤 翔輔,今村 文彦 |
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論文概要: | 本研究では津波避難行動に影響を与えると考えられる要因として、津波に関する情報源・情報の内容、津波災害発生以前の過去の津波災害の認知や津波への備え、東日本大震災発生以前や発災時の津波のリスク認知を網羅的に取り上げ、東日本大震災発生時の津波避難行動に最も影響を与えた要因を明らかにする。分析より、津波の事前の備えを行っていた住民や津波のリスクを強く認知していた住民の避難開始時間が比較的早くなったことがわかった。また、東日本大震災の津波の避難開始時間に最も影響を与えた項目は発災時に身に危険が及ぶと思ったかであり、次いで東日本大震災発災以前の津波の発生リスクの認知の影響が大きかった。この結果より、避難開始には事前よりも発災時のリスク認知の方が影響が強く、津波の発生リスクよりも具体的な身体の危険を感じることが重要であったことが明らかになった。また、個人での避難場所決定も避難時間への影響が大きく、行政等で呼び掛けている避難場所の事前決定の避難時間短縮への有用性が支持された。情報源では屋内受信機による防災無線の情報を利用することで避難時間が短縮する傾向にあったことが分かったため、屋内受信機の普及・充実が避難開始までの時間の短縮に有効であると考えられる。本研究では他地域の浸水被害状況の利用により避難開始時間が遅くなった。 |
著者: | 田平 由希子 |
共著者: | 川崎 昭如 |
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論文概要: | 伝統的な洪水のイメージと違い,バンコク首都圏の住民にとって,洪水は最も身近で防ぐのが難しい生活の脅威である.本本調査で明らかになったのは,2011年タイ大洪水当時,労働者が多い下位層の集合住宅が浸水深が最も高かった上,当時もその後も洪水対策があまり進んでいないことである.下位層のアパート所有者に対する防災啓発や指導,さらに洪水保険への加入支援が必要と考えられる.浸水中も生活が維持できる最低限のインフラ維持と外部アクセスを容易にする一定以下の浸水深が,下位層の被害を拡大させないためのキーワードである. 「一部を浸水させない」ことに集中するのではなく,浸水は許容するが,一定以下に浸水深を抑える措置を議論する事、その代わりに,低い浸水深に対応できる住居や地域の生活インフラ整備,住所登録に基づかない被害者への支援,また支援情報を隅々まで周知させることが特に重要である. |
著者: | 竹平 匠吾 |
共著者: | 山崎 文雄 |
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論文概要: | 2011年東北地方太平洋沖地震の際,震源から遠く離れた東京新宿や大阪湾岸などの超高層ビルにおいて,長周期地震動が原因となって,エレベータ停止などの機能支障や非構造部材の損傷が多数発生した.本研究では,大阪湾岸に位置する地上55階建の鉄骨造超高層建物で得られた22組の地震観測記録を用いて,1階に対する52階の床応答の3次モードまでの固有周期,減衰定数,刺激関数を同定した.建物軸方向別にこれらのパラメータの値を求め,それらの時系列での変化を把握した.また,各地震記録に対して得られたパラメータ値と2011年東北地方太平洋沖地震(本震)における1階床での記録を用いて,モード合成法により52階の床応答を計算し,対象建物の構造特性の時系列変化による影響を把握した.さらに想定南海トラフ地震のシミュレーション波形を用いて,制振改修効果を評価した. |
著者: | 山田 崇史 |
共著者: | 吉田 真子 |
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論文概要: | 本研究では,海水浴場訪問客の防災意識,津波避難行動,津波に関する知識を調査し,それらの関連性を分析することを目的とする.和歌山市5か所の海水浴場を調査対象地とし、訪問客の防災意識や防災知識、津波発生時を想定したときの避難行動についてインタビュー調査を行った。 調査・分析の結果、年代が上がるにつれてより多くの防災対策を行い、防災意識が高くなる傾向にあることが示唆された。また平常時の防災意識と津波避難行動の関連性が認められた。避難訓練の参加経験があるほうが津波避難のタイミングが早く、津波避難誘導看板を見ている人は、徒歩で避難する傾向にあることなどがわかった。また、数量化Ⅱ類から避難誘導看板の場所に向かう人の傾向として、避難誘導看板を見ていること、防災対策をしているかどうかが大きく関係していることが確認された。 |
著者: | 佐伯 琢磨 |
共著者: | 時実 良典,清水 智,中村 洋光,藤原 広行 |
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論文概要: | 本研究では,地震などの災害時にDMAT(災害派遣医療チーム)等の救助の対象となる,特に重篤な人的被害に注目し,その被害予測を試みる. 災害による人的被害に関する区分は,区分を使用する分野や目的によって異なる区分が使用されている.その一方で,異なる区分であっても,重傷と重症のように,同じ読み方で分野によって区分が異なるなどの問題がある.報道での「重症」は本件で対象とする外傷ではなく内因による症状が重い場合を示すのに対して,重症度・緊急度判断基準では外傷・内因を問わず生命の危険性を伴う場合に使われるなど,その言葉の使用には注意が必要である. このように,被害推定結果を使用する分野によって必要となる区分が異なることが予想されるとともに,被害推定結果を出す上では「どの区分による人的被害か」が明確である必要がある. 上記を留意したうえで,過去の被害データや文献などを用い,災害時の重篤な人的被害の予測式を構築する. |
著者: | 坂巻 哲 |
共著者: | 藤本 一雄 |
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論文概要: | 本稿では,全国各地で実践されている食に関する防災啓発の取り組みを整理し,若者・女性の防災意識を啓発するための方策の一つとして,「稲むらの火」のモデルである濱口梧陵に着目し,「濱口梧陵」を題材にしたフードメニューを開発した.そして,千葉県銚子市のホテルでフードメニューを提供・販売し,その有用性・課題について体験者の感想から分析した.その結果,多くの体験者から,「食」という身近な部分から防災意識の啓発・高揚に関する効果がみられることが確認できた.このことから,防災啓発フードメニューは,防災啓発の一つの方策として利用可能であるものと結論づけた. |
著者: | 廣田 裕子 |
共著者: | 小林 祐司 |
論文タイトル: | 自治会における防災意識・活動および学校・行政との連携に関する課題把握 -大分県臼杵市の自治会を対象としたアンケート調査を通じて- |
論文概要: | 南海トラフ巨大地震によって甚大な津波被害が想定されている大分県臼杵市は,地震津波だけでなく土砂災害,洪水,台風などのリスクも抱えている。今後発生する可能性のある大規模災害に対して,より一層防災意識の向上を図る必要がある。本論で扱う自治会アンケート調査の内容は,災害リスク評価と災害に対する備え,防災活動とその連携状況,学校や行政への要望(自由記述)である。結果として,災害リスクについては総合的にリスクが高いと判断している人が多いことがわかった。防災に関する取り組みの程度は,自治会によって,また項目によって差があった。自由記述においても,防災意識はあるものの,自治会と学校があまり連携できていないことがわかった。自治会は子どもたちが防災訓練へ参加することを望んでいることも把握できた。今後の研究で、行政への調査を行い,ハード対策や住民だけでは解決できない課題を把握することとする。今回の結果と合わせて考察することで,地域に合った対策を実践することが可能となるであろう。 |
著者: | 清水 智 |
共著者: | 小丸 安史,若浦 雅嗣,時実 良典,中村 洋光,藤原 広行 |
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論文概要: | 建物被害に屋根重量が関係していることが明らかとなっているが、既往の建物被害関数の多くは、構造、建築年代といった属性しか保有していない。本研究では建物被害関数の精度向上を目的とし、屋根形式を考慮した木造建物被害関数を構築した。被害関数の構築にあたっては、木造建物の属性毎に耐震評点分布を設定し、強震観測点周辺の実被害データから、地震動と上限評点の関係を示す損傷度関数を作成した。この損傷度関数と評点分布から屋根形式の違いを反映できる被害関数を作成した。作成した被害関数は、2000年鳥取県西部地震以降の被害地震を対象に検証を行うとともに、中央防災会議の被害関数による予測値よりも予測精度が向上したことを示した。 |
著者: | 本多 明生 |
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論文概要: | We investigated disaster risk perception and disaster preparedness at early childhood education and care (ECEC) facilities in Japan. Results revealed the following: (1) ECEC facilities assume disaster risks mainly from earthquakes, typhoons, and fires; (2) few facilities provide contents of disaster preparedness of facilities to guardians; and (3) most disaster prevention manuals currently used at ECEC facilities include matters related to physical and mental condition and psychological support after a disaster. |
著者: | 濱本 両太 |
共著者: | 浦川 豪 |
論文タイトル: | クラウドGISを活用した災害時の推定被災建物情報の早期作成と提供手法の開発 ―平成29年九州北部豪雨災害,平成30年7月豪雨災害を事例としてー |
論文概要: | 災害マネジメントサイクルに中の応急対応期は、災害対応や被災地支援を行う組織が状況認識の統一や実行可能な意思決定を行うため、被害などに関する情報を早期に収集する事が重要である。本研究では、クラウドGISを活用し、推定被災建物・住所情報を早期に作成・共有する新しい手法を開発した。被災地の空中写真や衛星画像をクラウドGIS上に素早く取込み、Web上で遠隔地からの画像判読プロジェクトを実施する事で被災エリアを推定する。GISの空間検索により推定被災エリアに含まれる推定被災建物・住所情報を抽出し、それをWeb上で効果的に共有する。本研究により開発された手法は、平成29年九州北部豪雨災害を事例とした検証を通じてその有効性を確認した。また、本手法を平成30年7月豪雨災害の6箇所の被災地を対象に実践し、推定被災建物・住所情報の早期作成と共有に成功した。 |
著者: | 富澤 周 |
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論文概要: | 参加主体の共通の意思形成を行うための協議を行う行政手法の一つである協議会方式は、災害対策においても活用が広がってきている。本稿は、官僚制における水平的調整の分析を行った先行研究で提示された「協議ユニット」という考え方を適用し、災害対策において協議会が持つ機能について考察した。その結果、協議会は気象庁等の情報発表機関と自治体との関係において、自治体による規制するかどうかの判断を事実上制約する方向に作用する性質があることがわかった。このことにより、協議会設置は防災情報そのものの効力を強化することになる一方、規制を行うことによって生じるコストや被害の負担は引き続き地方自治体や住民が負う枠組みが維持されることとなる。そのため、協議会方式を取り入れた災害対策においては、その点に一定程度配慮した制度設計がなされることが望ましいと考えられる。 |
著者: | 小玉 乃理子 |
共著者: | 秦 康範,越野 修三,阪本 真由美,宇田川 真之,国崎 信江,花原 英徳,星野 渉,斉藤 健郎 |
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論文概要: | 本稿では、近年の災害における物資や応援職員の受援事例、国・都道府県等における既往検討等を踏まえ、主として「広域防災拠点に必要な機能・規模」及び「広域応援を必要とする業務の選定」の観点から、長野県を事例に、都道府県の広域受援計画に定めるべき事項等の基本的な考え方や、策定上の留意点について検討した過程を述べている。 広域受援計画の構成は、広域防災拠点の機能や施設配置等を定める「広域防災拠点計画」と、受援対象業務及び関係機関の役割を時系列的に定める「機能別活動計画」の2編から成るものとした。 既往の整備計画等における広域防災拠点の機能を踏まえ、長野県の広域防災拠点が保有すべき機能について検討・整理した。長野県の地勢や陸路・空路、災害リスクを踏まえ、常に複数の広域防災拠点を配置できるよう、県内5ゾーンに広域防災拠点を配置することとした。また、関係機関の認識を統一するため、広域防災拠点に関連する用語を定義した。 受援対象業務としては、内閣府ガイドラインに示されている「活発な応援が実施されている業務」のほか、長野県の地域特性や、既往の広域受援計画の策定内容を踏まえた16の業務を抽出した。 今後検討すべき課題として、広域防災拠点施設の選定及び活用方法の具体化、関係機関の連携手順の具体化、災害対策本部における受援体制の構築、市町村広域受援計画の策定に向けた市町村との連携について整理した。 |
著者: | 多島 良 |
共著者: | 森 朋子,夏目 吉行 ,大迫 政浩 |
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論文概要: | 災害廃棄物分野では、図上演習による研修が全国的な広まりを見せつつある。しかしながら、経験が体系的に整理されておらず、知見が蓄積されていない。本研究では、模擬的な災害状況に身を置き、その中で発生する(付与される)様々な状況・課題に机上で対応する「対応型図上演習」に焦点を当て、参加者にもたらす効果と、効果の要因を明らかにすることを目的とした。そのために、平成29年度に兵庫県で実施された対応型図上演習を取り上げ、演習中に行われた模擬災害対応を量的・質的に分析するとともに、演習前後に実施したアンケート調査結果を統計的に解析した。その結果、講演と模擬災害対応を組み合わせた対応型図上演習には、イメージ醸成、対応スキルの向上、情報処理力の向上という多様な効果があることが示唆された。これらの効果は、災害廃棄物対策が十分に進んでいない現状においても、現場に近い仕事を担っている職員が参加者であれば、職位を問わず得られることが期待できる。また、高い効果を得るうえで、状況付与数については60分あたり4つ程度を基準としつつ、重視する効果に応じて調整することが有効であると示した。さらに、演習中に付与する状況と各状況に対してとるべき行動を体系的に整理した表を用いるなどし、模擬災害対応の質を高めたり、効果的な振り返りを行ったりすることも重要であると示唆された。 |
著者: | 宇田川 真之 |
共著者: | |
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論文概要: | 2018年豪雨災害に際して,国によるプッシュ型物資支援が実施された.2012年の災害対策基本法改正の後,2016年熊本地震に続く2回目の事例であった.熊本地震の教訓から,各地域では救援物資業務の改善が取り組まれており,2018年豪雨災害の被災県となった岡山県でも,官民の連携強化を図る協議会が開催されていた.そして,他都道府県と共通性の高い業務実施マニュアルや,実働訓練などが行われていた.本稿では,そうした背景から,岡山県における,西日本豪雨の初動期に行われた国の救援物資支援に対する対応実態を調査し報告を行なった.そして,業務フローの整理や情報様式の策定などの事前対策の有効性を確認した.また,県の広域物資拠点からの避難所への直接配送など,事前計画以外の対応実態などにもとづき,さらなる検討の必要な事項などを整理した.さらに,市町村の2次物資拠点の運用実態についても報告し,災害発生時の段階的な改善の考え方を示した. |