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地域安全学会論文集NO.44(電子ジャーナル論文)2024.3

No1
著者:

川口 均

共著者:

植村 信吉  石川 美也子

論文タイトル:

奈良県災害ボランティア受援体制整備事業の検証~成功・不成功混在データの解析~

論文概要:

The Nara Prefectural Council of Social Welfare implemented the Nara Prefecture Disaster Volunteer Reception System Project from FY2019 to FY2022. The ultimate goal of the project was to conduct disaster relief volunteer center set-up and operation exercises in all towns and villages in Nara. In this study, the project processes were analyzed using multivariate analysis. The analysis revealed the extent to which the five activities were effective in accomplishing the ultimate goal of the project.


No2
著者:

鎌倉 光

共著者:

梅本 通孝

論文タイトル:

全国市区町村における水害時越境避難対策の検討・準備の動向

論文概要:

近年その必要性が認識されるようになりつつある水害時の越境広域避難対策について,現場の災害対策に一義的に対応する市区町村における検討・準備状況の実態を把握することを目的として,隣接自治体への越境広域避難の実施により住民の避難距離の短縮が見込まれる自治体を対象としてアンケート調査を実施した.調査結果に基づき,数的集計によって回答自治体における水害時の越境広域避難をめぐる検討・準備の動向を把握することができた.また,この対策を進める上での課題について,KJ法による自由記述回答の定性的な検討を行った.本稿で得られた主な結果・知見は次の通りである. ・回答自治体の過半が水害時越境広域避難の必要性を認識しており,自域に災害リスクのある地域が多いとの認識,避難場所スペースが不足するとの認識がそれぞれ強いほど,その必要性の認識が強い. ・回答自治体の2/3が越境広域避難対策の検討に前向きであり,「必要地域・避難者数の把握」や「周辺自治体との協議」は取り組みが進む一方,具体的な「避難先の検討」や「避難経路の検討」の実績は低調である. ・越境広域避難対策を推進するためには,市区町村間の連携のための当事者間の調整・協議が不可欠な一方,それを促すべく国・県の積極的関与が求められている. ・他自治体からの避難者の受入について受入側自治体において住民の理解を得る必要がある.


No3
著者:

斉藤 一真

共著者:

梅本 通孝

論文タイトル:

先進国の標準化された危機管理システムの比較と日本への適用可能性の検討

論文概要:

現状,日本には様々な巨大災害のリスクが存在している.これらに対応するためには多組織の連携や協力が必要不可欠であるが,連携を行う災害対策本部やそれらを規定する現行の防災法制度において,連携を行えるような防災体制が整えられていない等の問題がある.この問題に対応するために,先進国の中で危機管理のスタンダードとされているIncident Command System(ICS)を解決の方向性として参考にする.アメリカ,イギリス,カナダの災害対応をICSの視点を持ちながら文献調査・比較を行い,日本への適用を考察する.アメリカはICSが開発された国として,すべてのレベル・すべての組織における緊急事態対応にICSの概念が導入され,調和のとれた構造・システムを構築している.イギリスは,特に国レベルでの連携を行うCOBRにおいてICSの要素が見られ,そのほか全体を通してシステムの標準化がなされている.イギリスの大きな特徴としてそれぞれの災害におけるレベル分けがなされていることが挙げられる.カナダはICSの一般的な構造と少し異なっていて情報処理に重きを置いているが,ICSの考え方は導入されている.文献調査より得られた知見を共通点と相違点でまとめ,日本における課題と照らし合わせ,適用可能性として提言を整理した.全体的な標準化を行うこと,緊急事態のレベルを設定することを提言として結論とした.


No4
著者:

高原 耕平

共著者:

論文タイトル:

阪神地域における震災学習を通じた教員の発達と災害伝承:神戸市立X小学校の事例

論文概要:

阪神地域の小中学校で阪神・淡路大震災以来続けられてきた「震災学習」について、それを教育する側である学校教員に注目して分析する。教員に関して3つの問題が予期される。①教員は何をめざして震災学習を行っているのか。②教員にとって震災学習はいかなる意味を持つのか。 ③震災学習そのものの継承は成立しているのか。この問題を、神戸市内のX小学校における校内調査と教員への面接調査から明らかにする。


No5
著者:

川脇 康生

共著者:

論文タイトル:

災害寄付は寄付者自身の幸福感を高めるか?―東日本大震災における実証分析―

論文概要:

本研究は,東日本大震災(3.11)後の市民活動に関する個票データを用いて,金銭寄付の有無や寄付金額の多寡などが寄付者自身の幸福感に及ぼす影響を,明らかにしようとするものである.モデル分析の結果から,3.11後,日本全体(被災地,被災者等を除く)で,自分は幸福だと思うようになった人は増えたが,災害寄付をしたことが災害後の幸福感をより高める(4段階のうち0.3~0.4程度上昇(1%有意水準))ことが示された.とりわけ災害寄付は支援者が相対的な幸福感を感じたために行われたというより,災害寄付をしたことでその結果自らの幸福感が高まったという因果関係が存在していたことが示された.また,災害前に寄付経験を持っていたことが災害時に寄付を行う可能性を高めることも示された.さらに,寄付金額の大きさではなく,対象や目的を明確にした寄付がより幸福感を高めることも明らかとなった.


No6
著者:

万江 有貴

共著者:

小林 祐司

論文タイトル:

南海トラフ地震を想定した都市計画・津波防災のあり方-立地適正化計画と事前復興計画に着目して-

論文概要:

本研究では、自治体が南海トラフ地震を想定して、都市計画や津波防災のあり方を見直すように促すことを目的として、「南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域」指定自治体を対象とし、その人口や災害リスクや各種計画の策定状況の現状を調査し、自治体の類型化を行った。さらに、策定済みの立地適正化計画と事前復興計画の分析を行い、その記載内容や課題を明らかにした。最後に、大分市を対象として、主に事前復興計画や立地適正化計画を中心として南海トラフ地震を想定した都市計画や津波防災のあり方についての提案を行った。結果として、研究対象地域には、人口が少ない自治体が多く、立地適正化計画や事前復興計画の策定が進んでいないことがわかった。また、海沿いに市街地が存在するため、居住誘導区域から津波浸水想定区域を除外することは現実的ではないとして、居住誘導区域から津波浸水想定区域を除外していない自治体が多くみられた。したがって、立地適正化計画の策定に留まらず、防災指針や事前復興計画などの津波に関する計画の策定を進め、行政と住民らが連携しながら津波対策に取り組んでいくことが重要である。また、住民が安全・安心に生活するためには、制度設計のあり方の見直しも含めて、リスクのある場所にできるだけ人を住まわせないことも長期的には検討しなければならないだろう。


No7
著者:

山形 真紀

共著者:

論文タイトル:

大規模災害における多数遺体の仮埋葬に関する阻害要因等の分析と考察〜東日本大震災の仮埋葬関係者インタビューを踏まえて〜

論文概要:

本研究では,大規模災害における多数遺体の対処方法の一つとして,仮埋葬の社会的受容性を検討した.  その結果,仮埋葬に影響する要因(阻害要因と促進要因)として,仮埋葬の概念,身元不明遺体の対応,行政による遺族対応(身元判明遺体の対応),仮埋葬の実施方法,遺族の心情,遺族の周辺環境(遺族周辺者・メディアなど),埋火葬文化の地域性・多様性という7つの要因が挙げられる. また,東日本大震災の仮埋葬に対する悲惨なイメージは,仮埋葬の当事者の立場により異なることが判明した.実施側(行政や事業者)においては,想定外の早期全改葬に至る過程や過酷な改葬作業そのものが,仮埋葬の悲惨なイメージに直結し,一方で,遺族側(遺族や周辺環境)においては,平時の埋火葬文化を背景にした仮埋葬に対するネガティブなバイアスや心理的抵抗感が,仮埋葬の悲惨なイメージに繋がったと推察される.さらに,仮埋葬とは埋葬(土葬)ではなく,『火葬するまでの遺体保存の延長』というような概念が妥当であると考えられる.  本研究の結論として,東日本大震災における仮埋葬の経験を検証することにより,大規模災害における多数遺体の対処方法として,地元火葬や広域火葬を補完するための,仮埋葬実施の検討とそのための社会的受容性の向上は十分可能であると考える.


No8
著者:

山口 まどか

共著者:

馬場 美智子

論文タイトル:

地域の共助につながる人的リソースと地域活動についての分析

論文概要:

阪神・淡路大震災以降、地域共助の取り組みが重要だとされてきたが、地域における共助の人的リソースは不足の一途で、従来の地域活動には行き詰まりが見られ、地域防災力の低下が懸念され続けている。本稿では、地域に共助の習慣や知見を養うための地域活動のあり方、仕組みを分析し、今後の地域活動を有効なものとするための新たな視点を提供する。ポイントはこれまで注目されてこなかった地域に潜在する人的リソースの見直しと掘り起こしであり、その人的リソースと地域の困りごと(脆弱性)をつなぐ仕組みである。その中で、今まで地域活動に取り組んできたキーパーソンたちが今後果たすべき役割も明らかになる。このアプローチによる地域活動は、災害用に固定されたつながりや役割分担を構築することではなく、地域の脆弱性を可視化すると同時に地域に潜在する人的リソースを見出し、その過程で関わった人々や地域社会全体に、流動的なつながりや共助の経験や知見が蓄積されることをめざすものである。


No9
著者:

那木 雅也

共著者:

小林 祐司

論文タイトル:

被害軽減のための事前の集団移転に伴う費用推計および課題把握-大分県佐伯市を対象として-

論文概要:

大分県佐伯市は南海トラフ地震発生時に,大分県内で最も早く津波が到達し,地域によっては10mを超える津波高が予想されている.さらに,一級河川の番匠川をはじめとする河川流域での洪水や山地を中心とした土砂災害もリスクを抱えている.各種災害を考慮した総合的な対策が求められており,リスクの高い地区においては移転について事前に検討しておく必要がある.本研究では,佐伯市を対象として,各種災害における被災リスクの実態を把握し,モデル地区において防災集団移転を行った場合の費用推計と検証を行い,佐伯市の災害対策に資することを目的とする.はじめに,宅地造成費の算出を行い,災害リスク,平均傾斜度,道路からの距離を考慮した移転候補メッシュの提案を行った.次に,被災リスクの実態の把握から,モデル地区の選定を行い,移転に必要な各費用の推計に用いる原単位を設定し,モデル地区の移転項目を対象に推計を行った.同様に被害額についても推計式の設定を行い,被害額の推計を行った. 最後に,移転費用と被害推計額を比較することで防災集団移転の実現可能性について考察を行った.結果として,3つのモデル地区で移転費用の推計額が被害推計額を上回った.今後は,宅地造成費を考慮した移転先の検討や移転後の居住ボリュームの検討による造成面積の削減などの検討が必要である.


No10
著者:

佐伯 潤

共著者:

梅山 吾郎 岩山 睦

論文タイトル:

災害用備蓄物資の保管方法に関する考察

論文概要:

多くの防災備蓄倉庫では、備蓄物資はブロック積みで集積されている。ブロック積みは、荷役作業が容易だが、荷崩れしやすい。物資の荷崩れは、作業効率の低下といった悪影響をもたらす。さらに、作業中に荷崩れが発生すれば、作業員の負傷という二次災害を引き起こす危険性もある。筆者らは、地震体験車を用い、様々な震度階、積み方による荷崩れの様子を観察した。その結果、積み方を工夫し、荷崩れ防止策を実施することで、震度階級にして2階級程度の耐震性を強化できることを確認した。


No11
著者:

大平 尚輝

共著者:

楊 一帆 名倉 航大 郷右近 英臣

論文タイトル:

2011年東北地方太平洋沖地震津波における位置情報付きツイート情報による電力の停止・復旧情報把握の試み

論文概要:

ソーシャルメディアの一つであるTwitterは、災害時に活用されることが期待されている。本研究の目的では,2011年東日本大震災で投稿された電力インフラに関する位置情報付きツイート情報から,被災地における停電や電力復旧の実態を把握することである.ツイート情報の本文から出現頻度が高い単語の機械的な抽出および目視判読したラベル付けによる分類を行い,被災者の電子インフラの被害に関するツイート本文の傾向を把握した.また,ツイート情報の日時と場所の情報および災害対応時に使用された停電情報と比較して,被災者が発信する傾向を時空間的に把握した.その結果、被災者が停電や電力復旧のような電力インフラに関するツイートを投稿した際に,その内容に含まれる頻出語や傾向を示した.また,ツイート情報から電力インフラに関する被災地の状況を把握できる可能性を示した.


No12
著者:

細川 由美子

共著者:

木村 玲欧

論文タイトル:

妊産婦に対する災害への防災教育プログラムの効果の検証

論文概要:

本研究では,妊産婦の災害への意識を高め, 事前の備えの知識, 技術(行動)を高める教育プログラムを開発し, 効果を検証した。研究デザインは,妊婦群と乳児を持つ女性群の2群に分けて教育プログラムを実施し, 2群の教育プログラム実施前後を比較する介入研究を行った。教育プログラムでは、ワークショップ実施前後に3回のアンケート調査を行った。分析の結果, 災害への備えに関する全16項目の目標の達成について、ワークショップの前後で有意差があり、妊産婦の災害の備え行動の実施が向上した。本教育プログラムは、妊産婦の災害への備えに対する教育効果があったと言える.


No13
著者:

楊 一帆

共著者:

大平 尚輝 郷右近 英臣

論文タイトル:

Time and Spatial Analysis of Flood Disaster based on GPS Data:A Case Study of Flood Disaster in Nagano City in 2019

論文概要:

This paper presents a 2019 Nagano City flood disaster case study, analyzing flood dynamics using GPS data. Temporal and spatial changes were investigated by filtering, classifying, and overlaying GPS data from October 12th to 14th, 2019, alongside precipitation and river levels. Research findings reveal notable GPS data reduction during the flood, recovering post-disaster. Spatial analysis pinpointed the most severe flood-affected region west of Chikuma River. The study underscores GPS data's importance in flood analysis, offering insights to bolster disaster response and urban planning.


No14
著者:

田中 奈美

共著者:

沼田 宗純

論文タイトル:

災害時の身体障害者補助犬ユーザーに関する課題分析を踏まえた自治体における対応業務の提案と業務フローの構築

論文概要:

本研究では災害時の身体障害者補助犬ユーザ ーおよび補助犬に関する課題を明らかにするとともに,自治体による効果的な災害対応を実現するために,身体障害者補助犬ユーザーに関する災害対応業務を整理することを目的とする.まず,現在の国および地方自治体における対応状況の指標として,国や都道府県,市町村等の防災に関連するガイドラインや計画等おける身体障害者補助犬ユーザーに関する記載状況を調査し,考察する.次に,災害時における身体障害者補助犬ユーザーおよび補助犬における課題を明らかにするため,新聞記事等の調査を行いユーザ ーの証言等を発災から初動,応急,復旧・復興の各段階に分けて分析する.さらに課題を踏まえた対応業務の提案を行う.最後に,対応業務の流れと全体像の把握,関連資料の一元管理のため業務フローを構築する.


No15
著者:

韋 祖銘

共著者:

林 佳静 田口 博之 中村 仁

論文タイトル:

訪日外国人観光客を対象とした地震発生時の避難誘導標識の有効性に関する研究ー東京の浅草寺周辺地区を対象とした事例研究ー

論文概要:

本研究は,外国人観光客が多く訪れる東京の観光地における避難誘導標識の現状を調査し,外国人観光客の地震発生時における避難誘導標識の有効性を検証し,今後の改善すべき問題点について検討することを目的とする. 研究の方法として,浅草寺周辺に設置されている避難誘導標識,および観光案内板等の避難誘導に関する標識の設置状況を調査した.また,浅草寺周辺を訪れている外国人観光客を対象としたインタビュー調査を実施し,外国人観光客の地震や避難に関する知識,避難関係標識の認識を調査した.  調査の結果,避難関係標識の現状調査から,既設の避難誘導標識は表示面のシートや方位矢印が欠損するなどの問題があり,適切な維持管理が求められる.また,外国人観光客が多数訪れる浅草寺の境内や商店街に設置されていないことがわかった.インタビュー調査の結果から,浅草寺周辺に設置されている避難誘導標識は,外国人観光客における認知度と視認性が低く,表示内容についても,方向矢印の意味が誤って理解されるなどの問題点が明らかとなった.また,観光案内板やそこに表記された災害避難情報に関する認知度の低さが明らかになった.クロス集計の分析から,地震火災に関する知識を持ち合わせていても避難関係標識の存在が確認できないことなどが明らかになった.避難誘導標識に対する視認性の低さや誤解を与える表示内容は,早急に改善すべき問題点である.


No16
著者:

三浦 瑞貴

共著者:

曹 蓮 小林 亮博 上坂 大輔

論文タイトル:

自然災害における曝露量と自己効力感に関する分析―スマートフォン位置情報を用いた個人の曝露量に着目して―

論文概要:

When evaluating the risk of natural disasters in individuals, there are objective risk of exposure to natural disasters and self-efficacy to cope with natural disasters. It is generally said that self-efficacy is low when risk is high. However, in terms of the risk of natural disasters for individuals, we guessed that the correspondence relationship as in previous studies is not necessarily established. Therefore, we focus on the individual's exposure using smartphone's location data and self-efficacy and analysis the perception and disaster preparation action of natural disaster risk.


No17
著者:

小沢 裕治

共著者:

橋冨 彰吾 飯阪 真也 富田 孝史

論文タイトル:

南海トラフ地震後の防災拠点におけるエネルギー確保に関する考察-愛知県内での電力途絶を例にして-

論文概要:

人命救助のための重要な活動拠点である自治体や災害拠点病院では、大災害によるライフラインの途絶に備え、発電機用の燃料や水を概ね72時間分備蓄しておくことが求められている。しかし、南海トラフ地震が発生した場合、例えば復旧までの予測期間が最も短い電力でも1週間を要する。そこで、本研究では愛知県の重要拠点での電力確保を例に、電力復旧までの期間、非常用発電機を確実に稼働させるための現状と課題を検討した。その結果、県内の燃料の在庫は30日以上、タンクローリーによる燃料配送負荷は88%程度となり物的な対応はできているが、課題として重要拠点と製油所・油槽所間の72時間以内の道路復旧が必須であること、また、その間に集中的に発生する燃料需要に対する配送計画の策定が必要であることが分かった。


No18
著者:

藤原 宏之

共著者:

辻岡 綾 岸江 竜彦 竹之内 健介 宇田川 真之 川口 淳

論文タイトル:

都道府県リエゾン制度の多角的評価に基づく考察-リエゾンへの質問紙調査を通じて-

論文概要:

都道府県が被災自治体へ派遣するリエゾンの有用性と課題が過去の災害で確認されている。一方で、リエゾンとして派遣される職員は、どのような職員が任命され,その役割について、どのように認識しているのは不明確である。そこで、先行研究において、リエゾン担当者の視点を通じて得られた4つの知見の妥当性を、リエゾンへの質問紙調査を通じて確認した。その結果、「知見①:リエゾンには防災の知見を持たない職員も含めて任命せざるを得ない状況である」、「知見②:情報過程が整理され,リエゾンが収集する情報の位置付けが明確になっている状態が望ましい」、「知見③:リエゾンに求められる役割が発災覚知の前後で変化する」、「知見④:支援の役割を担うことができる職員は限られるため,リエゾン制度とは別に制度を設ける必要がある」の妥当性を確認した。これらの結果を踏まえて、リエゾン制度の実効性を高めるための3つの対策を考察した。1つ目は、「何を、いつ、決断するのか」を明確にした情報過程を構築し、災害対策本部で活動する職員と、リエゾンが共有できる状態を構築する必要性を指摘し、現場での適応を目的に具体例を提示した。2つ目は、大規模災害の覚知直後には調整を担う管理職の派遣が望ましいことを確認した。3つ目は、災害対策本部運営支援を担う制度とリエゾン制度は分けて制度設計することが望ましいことを提案した。


No19
著者:

南 貴久

共著者:

加藤 孝明 杉山 高志

論文タイトル:

避難意向調査の特性とバイアスの構造に関する考察― 他分野の表明・顕示選好調査との比較から ―

論文概要:

洪水などの事前予測が一定程度可能な災害では、人的被害を軽減するうえで適切な事前避難が重要である。住民の避難意向や避難行動の傾向を正確に把握して啓発や情報の発出方法の改善などの政策に反映するために、これまでに国内外で避難の調査研究は数多く実施されている。しかし、避難調査の方法論そのものや、その特性により生じうるバイアスについての既往研究はほとんどない。 本稿ではまず、環境や交通などの他分野における表明選好調査や顕示選好調査に関する先行研究をレビューする。次に、これらの方法の避難調査への適用を試み、避難調査ではどのようなバイアスが生じるか、あるいは生じないかについて、他分野の事例と比較しながら議論する。むすびに、避難調査におけるバイアスを可能な限り排除するための可能性について議論する。


No20
著者:

森保 純子

共著者:

立木 茂雄

論文タイトル:

個別避難計画作成の優先度推定手法への機械学習導入の探索

論文概要:

個別避難計画の作成の取り組みが各市町村の努力義務とされてから2年以上が経過した.地域の支援が本当に必要な方の個別以南計画の作成は,順調に進んでいるとは言い難い状況である.その背景には,少子高齢社会において,高齢者等支援を求める人は多いが,支援を行える人が少ないという人口構造に起因することや,地域での人の繋がりが希薄になった生活様式や価値観の変化があるだろう.しかし,そのような現代社会であるからこそ,個別避難計画の作成を進め安心な地域づくりを実現するべきである.そして,限られた地域資源の中で,計画作成を効率よく行うことは,必須の視点である.本稿では,個別避難計画の作成に関し,対象者の推定の手法の確立と精度向上を目的に,福祉的視点を用いて探索的に独立変数の調整を行い相互作用効果の存在を考慮して調整を行った.さらに,同様の判断を機械学習において実装する試みとして,独立変数の2次項を作りディシジョンツリーモデルやランダムフォレストモデルを用いて,多数の独立変数から予測を行えるよう,機械学習の手法を試みる.


No21
著者:

留野 僚也

共著者:

豊田 祐輔 鐘ヶ江 秀彦

論文タイトル:

京都市伏見区深草学区における避難所運営を題材としたゲーミングを通じた自主防災会の主体的な防災活動の促進に関する研究

論文概要:

The aim of this paper was to design and to verify a gaming for residents engaged in proactive local disaster management activities related to the evacuation shelter operations. The Evacuation Shelter Operations Gaming was developed and implemented for residents in Fukakusa elementary school district. The paper evaluated the effectiveness of this implementation, including its impact influencing changes in local disaster management activities. The results showed that the voluntary disaster management organization engaged in proactive activities based on the lessons learned from the gaming.


No22
著者:

湯井 恵美子

共著者:

上園智美 鍵屋 一

論文タイトル:

大都市における障害福祉施設BCPの課題に関する研究-東京都における知的・発達障害福祉施設のBCP作成プロセスより-

論文概要:

厚生労働省は、障害福祉施設に対して災害時の事業継続計画の策定を義務づけているが、その指針や雛形は、大都市における大規模災害に対応できるモデルを示していない。そこで、東京都内に法人本部を置く多数の知的発達障害者福祉施設を対象にアンケート調査を実施し、大都市ならではの災害対応の課題を明らかにした。その結果、大都市に立地する施設ほど、事業継続が困難であることが明らかになった。


No23
著者:

名倉 航大

共著者:

大平 尚輝 郷右近 英臣

論文タイトル:

2016年熊本地震におけるTwitterを用いた被災者ニーズ推定モデルの検討

論文概要:

Understanding the spatial distribution of information on the needs of victims and damage from the content of tweets is a difficult task. The purpose of this study is to investigate a model for estimating the needs of victims expressed in tweets by performing spatial interpolation using kriging on the distribution of seismic intensity and tweets posted after the 2016 Kumamoto earthquake. As a result, it is suggested that the blank area where tweets about the situation of the victims are not sent out can be a clue to grasp the actual damage situation in the affected areas.


No24
著者:

川西 勝

共著者:

論文タイトル:

テレビ・ドキュメンタリーは「防災情報と避難」をどう報じてきたのか-NHK豪雨災害特集番組の通時的内容分析-

論文概要:

「防災情報と避難」を巡る議論の深化やジャーナリズム活動の向上に繋がる知見を得ることを目的として,NHKが1980年代から39年間に亘って放送してきた災害のドキュメンタリー番組45本を対象に,内容分析を行った.メディア・フレームの同定と計量を踏まえて,番組の視点が3期に分けられることを見出した.1980年代の第Ⅰ期は,防災情報の科学的な限界を認識して,防災情報の送り手に対する指弾は抑制されていたが,1990年代以降の第Ⅱ期になると,「防災は行政の仕事である」という価値観が前面に出て,防災情報を巡る不手際は厳しく指弾された.2010年代半ば以降の第Ⅲ期になると,防災情報が出ても避難しない住民の実態に焦点が移行し,新たな解決策が様々に模索されている現状であることがわかった.Ⅱ期の番組を通じて,防災情報発出の基準化が強く求められ,実際にその方向で対策が進められた結果として,防災情報が頻発されるインフレ化が起きた.その背景には,報道が強く主張してきたことが,防災対策の動向に反映したことが考えられるが,番組の中では,自らの主張が社会へどのように影響したのかを問い直す視点は見られなかった.社会への影響力が大きいマス・メディアは,報道で強調した見解がどのような帰結をもたらしたのかを再帰的に見つめ直す視点を持つことが求められる.


No25
著者:

中島 美登子

共著者:

論文タイトル:

真備町の災害公営住宅における入居者の生活実態に関する研究関する研究 −集会所の利用と交流状況に着目して−

論文概要:

本研究では,コミュニティの継続性が乏しい状況にある真備町の災害公営住宅の入居者を対象として,2021年から2022年にかけて継続的な調査をおこない,災害公営住宅での生活に対する入居者の認識と入居者間の交流状況,そして集会所の利用状況等に焦点を当てて災害公営住宅入居者の生活実態とその問題点を明らかにするとともに,そうした状況においてどのような支援が必要かについての検討をおこなった.その結果,災害公営住宅の集会所の適切な利用を通じて,一定の交流関係が生み出されることが明らかとなった.しかし,それを可能とするためには.災害公営住宅内における顔見知り,もしくは適切な仲介者の存在や,集会所運営のための適切なリーダーの必要性,民主的な集会所利用方法の明示など,集会所の利用を促進するうえで必要となる諸条件が求められることも明らかとなった.さらに,こうした諸条件は,災害公営住宅によって大きく異なることから,それぞれの災害公営住宅の文脈に合わせた支援が必要だと考えられる.その際に,こうした住民自らによる交流関係構築を,例えば復興サポートセンター(岡山県)や真備支え合いセンター(倉敷市),倉敷市社会福祉協議会などの行政組織が,コミュニティ形成のノウハウや知識,情報を提供し,支援することで,住民によるコミュニティ形成がより促進されると考えられる.