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地域安全学会論文集No.36 (電子ジャーナル論文) 2020.3

No1
著者:

有吉 恭子

共著者:

柴野 将行,佐々木 俊介

論文タイトル:

「避難所運営マニュアル」の作成と活用に関する研究 -全国自治体郵送調査を基に-

論文概要:

本研究の目的は、避難所運営マニュアルの実態解明として基礎自治体における1.マニュアルの認知度、2.マニュアルの作成過程、3.マニュアルの活用、4.マニュアルの改訂について、郵送調査で明らかにすることである。本調査では、日本における全1896自治体に調査票を送付し1010回答があった。分析の結果、マニュアルの認知度は高く、マニュアルの作成過程の傾向としては、基礎自治体の防災部局が、3年以内に、国や都道府県のガイドラインを参照して作成したものが多い。マニュアルの活用については、想定と現実に相違があった。マニュアルの改訂については、約半数の自治体が改訂し、作成組織と改定組織に相違傾向があった。本郵送調査を通じて,次の2点が示唆されたが本郵送調査のみでは十分に論証できないため今後、質的調査を含めた追加的な調査を行う必要がある。①避難所運営マニュアルの作成主体について、自治体防災部局単独作成傾向があり、住民(地域)との協働で作成している割合が低いことから、多様な主体との協働の困難さがマニュアル策定の進まない要因の一つと考えられる。②避難所運営マニュアル改訂に係る組織は、作成にかかわる組織とほぼ同じだが、防災部局が関わる予定が多く減少し、福祉や教育委員会部局が増加しており「よくわからない」自治体が一定数以上ある。こういったことがマニュアルの見直しや改訂がすすまない理由のひとつと考えられる。


No2
著者:

土肥 裕史

共著者:

中村 洋光,藤原 広行,清水 智,時実 良典

論文タイトル:

地震による主要なぺリルとエクスポージャに着目したリスク指標の提案

論文概要:

近い将来の発生が確実視される南海トラフ巨大地震に対して,各々の地域が有するリスクを把握し,それに応じた防災投資を行うことは喫緊の課題である.より効果的な地震リスクマネジメント向けて,科学的知見に基づくハザード情報や地域ごとの曝露データに基づくリスク情報の重要性は論を俟たない. 本研究では,効果的な地震リスクマネジメントに資するリスク指標作成の第一歩として,市区町村ごとに潜在する地震リスクを,確率論的ハザード情報を用いて定量的に明示したリスク指標を試作・提案した.具体的には,地震による主要なペリル5項目(地震動,液状化,火災,土砂災害,津波)およびエクスポージャ5項目(建物被害,人的被害,ライフライン被害,交通インフラ被害,産業被害)に着目したリスク指標である. また,提案したリスク指標を用いて,全国の市区町村における地震リスクを試算した.まず,算出したリスク指標ごとの全国分布図を示し,全国的な概況を分析した.さらに,算出したリスク指標を市区町村ごとにレーダーチャートで示し,4つの市区町村(陸前高田市,浦安市,東京都杉並区,静岡市清水区)を対象に,その地域が有するリスクについて分析した.


No3
著者:

虫明 一郎

共著者:

松丸 亮

論文タイトル:

首都直下地震緊急対策区域における市区町村の地域残存リスク算定モデルの検討 ~エンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)フレームワークの適用可能性~

論文概要:

東日本大震災やその後の災害を経て、防災・減災への対応が進んでいるが、防災・減災による危険度の逓減を考慮した「地域の残存リスク」を体系的に評価した研究は少ない。著者は現在、巨大地震に対する残存リスクの体系的評価にかかる研究について、「自治体ホームページの公表情報調査」の後、首都圏直下地震を対象とした「巨大地震の地域残存リスク算定簡易モデル」の開発に取り組み、地域の危険度と残存危険度を簡易に提供することを可能とした。


No4
著者:

豊田 利久

共著者:

崔 青林,池田 真幸,佐藤 純恵,中村 洋光,藤原 広行,堀江 進也

論文タイトル:

地震による直接被害額のリアルタイム推計に関する研究

論文概要:

日本における震度6弱以上の地震を対象に、いつどこで発生しても、その直接的経済被害額(ストック全体の被害額)を迅速に推計できるシステムの開発を報告する。経済的被害額の情報は、公民両部門、とりわけ公的部門の震災後の対応における意思決定で重要な役割を果たす。この研究では、社会全体の物的脆弱性を暴露する物的ストック(建築物、公共インフラ、民間資本の全体)の残高と地震ハザード要因(地震動、津波等)によって直接被害額が決定されるというモデルを推定する。1983年の日本海中部地震から2016年の熊本地震までの公表されている(県別)被害額を、被災市区町村別、震度別に集計されたストックで説明する特殊な回帰モデルを開発して推定する。推定結果の統計的頑健性を、係数の有意性、分散不均一性のチェック、標本内のパフォーマンス、標本外への予測力等で綿密に検証した。その上で、大きな津波を伴うケースと伴わないケースの2つの推定モデルを求めた。これを基に、防災科研の地震動情報と市区町村別ストック情報で迅速に経済被害額を250mメッシュで表示することができる。


No5
著者:

中林 啓修

共著者:

論文タイトル:

2006-2018年における活動に見る自衛隊による災害派遣のパターンと近年の変化に関する考察:DRC類型を用いた分析

論文概要:

自衛隊による災害派遣は,1995年の阪神・淡路大震災以降,広く社会的に認識されるようになり,災害対応における自衛隊の活動に対する認識は2011年の東日本大震災を経て完全に定着し,かつ高い社会的評価を受けるに至っている. 現在、自衛隊の災害派遣は「提案型」派遣の導入など災害対応における自衛隊の役割はより大きなものへと見直されつつある。そうした状況を踏まえ、本稿では防衛省のホームページで掲載されている2006年から2018年までの13年分の災害派遣に関する「お知らせ」を個別に集計・整理したデータセットを用いて近年の災害派遣の全体像の把握を試みると共に、DRC類型を援用してその活動パターンを分析した。最後にここまでの検討を総括し,変革期を迎えつつあるように見える自衛隊の災害派遣が今日抱えている課題として、予想される巨大災害に向けて、支援終末期のニーズを多機関で調整・分配する必要性を指摘した。


No6
著者:

冨田 道子

共著者:

小谷 教子,石垣 和恵,齋藤 美保子,木村 玲欧

論文タイトル:

家庭科ユニバーサルデザイン学習を活かした減災教育プランの実践

論文概要:

本研究の目的は,持続可能な社会を実現できる生活主体者の育成を目指して開発した,減災教育プランの教育効果を明らかにすることにある。UD授業とセットで本プランを高校3校で実施したところ,UDの定義や避難所や災害関連死の実態を理解でき,社会に広がるUD製品,施設,情報・サービス等が自分にも関わるものであること,また多様な人々のなかに自分も含まれる可能性があることを理解できた。さらに,避難所において高校生が支援者になる可能性があることを理解できた。


No7
著者:

加古 嘉信

共著者:

吉村 晶子,小山 真紀,宮里 直也,関 文夫,中島 康,佐藤 史明

論文タイトル:

救助活動の困難度を構成する要因に関する研究 -2016年熊本地震における木造倒壊建物からの救助活動実態データを用いてー

論文概要:

地震により多数の建物倒壊・閉じ込め事案が発生した場合に貴重な救助リソースを最大限効率的に活用するためには,各要救助現場の困難度を適切に評価し,それぞれのレベルに応じた資機材,技能等を持った救助部隊を割り当てることが重要である.本研究では,警察庁が収集した2016年熊本地震における木造倒壊建物からの救助活動に関する実態データを基に,活動対象建物の破壊程度,閉じ込め位置の浅深程度,閉じ込め空間の規模,要救助者の被挟圧状況等が活動所要時間に与える影響について関連性を調べた.その結果,活動所要時間に影響を及ぼしていたのは,閉じ込め空間内に位置する要救助者の「被挟圧状況」および「下部の状況」であったことが分かった.以上より,木造倒壊建物からの救助困難度の評価は,活動対象建物の外観からのみでは適切に行うことは難しく,倒壊建物内に閉じ込められた要救助者自体の置かれた状況を確認する必要があることが分かった.


No8
著者:

高橋 幸宏

共著者:

能島 暢呂

論文タイトル:

南海トラフ巨大地震による津波の浸水深分布の空間相関特性の評価とシミュレーション

論文概要:

本研究では,特異値分解を用いたモード分解手法と,モード合成によるシミュレーション手法を,津波の浸水深分布に応用し,その空間相関特性を評価するとともに,空間相関を考慮した浸水深分布のシミュレーションを行うものである.具体的には南海トラフの巨大地震モデル検討会が太平洋沿岸部を中心に想定している複数ケースの浸水深分布を対象として,空間相関特性の評価およびシミュレーションを行った.さらに,限定的な地域における浸水深分布の空間相関特性を評価し,全域の空間相関特性との違いについて考察した.


No9
著者:

宇田川 真之

共著者:

三船 恒裕,磯打 千雅子,定池 祐季,黄 欣悦,田中 淳

論文タイトル:

平常時の津波避難行動意図の規定要因と規範意識の影響 ~汎用的なフレームに基づく高知市の調査結果から~

論文概要:

平常時における避難行動意図に関する要因として「リスク認知」「効果評価」「実行可能性」「主観的規範」「記述的規範」「コスト」の6要因を仮定したモデルのの検証を行った.住民属性に多様性のある地域での調査の結果,想定した6因子が初めて分別された.避難行動意図を目的変数とした重回帰分析の結果,住民属性の違いにより有意な因子が異なる結果となった.ただし既往調査と同様に「主観的規範」因子が最も大きな影響を有意に及ぼす共通した結果が得られ,集団行動の側面の強い津波避難行動意図での共通性の高い傾向であることが示唆される.そして,規範意識の高低には地域の防災訓練への参加状況や責任帰属認知との有意な関連がみられた.防災対策への示唆としては,地域住民の防災訓練への参加率を高めること,いわゆる防災における「自助」意識を高めることが,避難行動に関する規範意識を高め,ひいては避難行動意図を促進することが期待される.


No10
著者:

佐藤 公治

共著者:

木村 玲欧,幾島 浩恵,澤野 次郎,宮崎 賢哉,小野 裕子,橋本 雄太

論文タイトル:

児童館で実施される小学生向け防災教育の概念化の試み 〜 和歌山県上富田町朝来児童館での生活者目線の実践をもとにして 〜

論文概要:

本研究は、和歌山県上富田町の児童館で行われている防災教育プログラムを類型化し、小学校での日常的な授業の中での適用可能性を考察したものである。本プログラムは、主婦たちが生活者目線で「日々の生活から防災を学ぶ」ことを目的に取り組んでいるプログラムであり、2007年以降、160を超えるプログラムが開発・実践されている。本研究では、この実践について学習目標をベースにした整理を行い、新学習指導要領の「資質・能力の三つの柱」を使って活動を評価した。またこれらの活動が、今後の学校教育プログラムにおける防災教育で適用可能かどうかについても検討・提言を行った。