電子ジャーナル
地域安全学会論文集No.32 (電子ジャーナル論文) 2018.3
投稿日:2018年3月26日
著者: | 藤本 一雄 |
共著者: | 戸塚 唯氏,坂巻 哲 |
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論文概要: | 本研究では,まず,空襲による逆境からの立ち直り(レジリエンス)に関する個人的要因を明らかにするために,関東地方の空襲体験談を用いて,人命・家屋の喪失から立ち直ることができた理由を抽出・分類し,その結果を既往研究のレジリエンス要因と比較した.つぎに,レジリエンスを高めるための読み物教材として空襲体験談が有効であるかを確認するため,大学生・高校生を対象として,ある1編の空襲体験談を読んでもらい,その感想について分析した. |
著者: | 横山 大輔 |
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論文概要: | 本研究では、ブラジルにおいて憲法及び連邦法に基づき構築された、災害リスクを考慮した都市計画制度に着目し、同制度の位置付け、詳細及び特長を明らかにすることを目的としている。分析の結果、1)我が国の土地利用に関する法制度と異なり、ブラジルの法制度では災害リスクと共存しつつ、将来にわたる市民生活や産業活動等をいかにして持続的に進めるべきかを検討するため各種検討項目を示し、都市計画で検討、規定するよう市政府に求めている点が特長として明らかとなった。また、2)一部の先進的な市政府では、独自に災害リスクを考慮した形でマスタープランの改定案を作成した事例も存在することが明らかとなった。 |
著者: | 秋冨 慎司 |
共著者: | 小山 晃,爰川 知宏,前田 裕二,木村 玲欧,田村 圭子,林 春男,目黒 公郎 |
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論文概要: | 背景 平成 23 年 3 月 11 日に日本の観測史上最大の地震であるMw9.0の東北地方太平洋沖地震が発生した。この地震が引き起こした津波は、最大遡上高40.1mにおよび、地震と津波による死者・行方不明者が 18,452人1)に達した。さらに福島第一原子力発電所では、3月15日にかけて地震と津波による電源喪失による炉心溶融と水素爆発事故が次々と発生し、大量の放射性物質の放出、拡散による広範囲の汚染を引き起こした。そしてこの未曾有の大災害は「東日本大震災」と呼称されるに至った。 岩手県での死者・行方不明者は合わせて5,796人と甚大であった。しかも四国四県に匹敵する面積を持ち、かつ米国ワシントン州の約1/2におよぶ沿岸部の海岸線直線距離を有するため、岩手県庁が対応しなければならないエリアはきわめて広範囲であった。行政機関自体も、地震動や津波による被害を受け機能不全を起こしていたし、復旧復興を担う行政職員も少なからず津波災害の犠牲となった。また、中央(日本政府)からの支援に関しても混乱が生じた。例えば、内閣府に設置されている地震防災情報システム(DIS;Disaster Information System)2)は、岩手県の死者・行方不明者を100名以下と算出した。この被害想定算出は地震の揺れのみに基づく推計値であり、津波による被害は含まれていないものだが、「死者行方不明者100名以下」という結果の数字のみが独り歩きし、岩手県の被害は少ないという誤った情報解釈が行われた。 内外のあらゆる混乱が同時に起こる状況に加えて、岩手県では広範囲に及ぶ被災地に対して対応できる人員も物資も不足していた。この状況は医療チームも例外ではなかった。前述のDISによる被害想定の誤った解釈により、岩手県への応援の必要性は低いと国や他県から指示を受けたことで、全国の医療チームは、まずは福島県と宮城県を中心に対応した。青森県も八戸市を含む同県沿岸部市町村の支援を行ったため、岩手県は実質上は秋田県からの支援しか得ることができなかった。また津波被害を受けていない内陸部の災害拠点病院を災害拠点として準備する指示をしたが、変電圧器の故障等で重傷者の受け入れ不可である災害拠点病院も発生した。このように面積の大きな県として、もともと重症患者の受け入れ可能な災害拠点病院が少なく、また県内において救命救急センターのある3病院のうち2カ所が沿岸部であったため、被災地からの重篤患者の受け入れはさらに厳しい状況であった。 人命救助を第一目的とした急性期から避難所支援に移る亜急性期にかけての医療マネジメントも、前述の通りかなり厳しい状況であった。災害時の派遣医療チームである『日本DMAT(Disaster Medical Assistance Team)』は、「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」3)と定義されていたこともあり、その活動期間は発災当時は急性期の2日間と規定されていた。また、二日目には宮城県と福島県において日本DMATの派遣がこれ以上は必要ないと判断されたため、岩手県からは活動期間延長の要請があったにも関わらず撤収の指示が出された。これは被災地の情報が入手できていないことが原因と考えられたため、岩手県のみならず宮城県と福島県にも日本DMAT派遣の継続の必要性を説明した。その結果、撤収指示を覆して3県全てに継続派遣が決定された。これにより、岩手県では日本DMATを9日間ローテーションで運用することができた。これは急性期の2日間で活動を終了する従来型の支援から、現地で最低1週間程度の活動が可能な救護班型支援へ移行する契機となった。またシームレスな医療体制を構築するために、発災後6日目からの3日間をかけて、日本医師会災害医療支援チーム(JMAT;Japan Medical Assistant Team)や日本赤十字などの救護班に順次引き継ぎを行った。さらに継続した医療体制の構築のために、医療チーム派遣調整を継続的に計画した。しかし、通信網の途絶と道路の遮断があったため、様々な問題が発生した。連絡が取りづらい被災地では、少しでも状況が落ち着くと、単独で撤収可能と判断し解散指示をすることがあり、情報網が途絶かつ錯綜している状況下での活動に課題が残った。 |
著者: | 佐藤 克志 |
共著者: | 金 玟淑,大津山 堅介,牧 紀男 |
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論文概要: | 壊滅的な被害を受けた地域における復興は,まちの再建のみならず災害の記憶と教訓の伝承が課題である.一方,その時その場所で暮らしていた生活文化の消失による地域文脈の断絶が懸念されている.本研究では和歌山県由良衣奈地区を事例に事前復興計画案策定における地域の記憶継承に寄与するため,被災後の復興における空間的記憶の抽出,及び地域特性をワークショップ形式による手法を試みる.収集された地域社会の記憶は「自然・景観」,「生業」,「歴史・伝統」に関する空間的記憶を断絶することなく存続する一方,「体験・出来事」の喪失が示唆された.また,津波浸水ラインと合致する地蔵の利活用,秋祭りに利用する貴重な用具の事前移転を指摘した. |
著者: | 土屋 依子 |
共著者: | 中林 一樹,小田切 利栄 |
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論文概要: | 本研究は,東日本大震災から4年間における被災者の住宅再建の状況と,生活再建上の課題を明らかにすることを目的としている.2015年2月,岩手県大船渡市,宮城県気仙沼市,福島県新地町の津波被災者を対象とした意識調査を実施した.その結果,1)被災者の自力再建による住宅再建は被災直後から着実に進んできたが,土地や資金の確保状況によって被災者の再建過程や進捗にはばらつきがあること,2)仮設住宅居住者は,応急仮設・見なし仮設ともに一定の収入は確保され自力再建の意向はあるが,将来的な家計の不安や迷いが強くあること,3)修復や新築による住宅再建者のなかには,移転可能性やさらなる修復の必要性から復興感が低い人が含まれること等が明らかになった. |
著者: | 森 伸一郎 |
共著者: | 羽鳥 剛史 |
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論文概要: | 住民の防災対策行動の割合が低いのはナイーブリアリズムを原点とした認知バイアスが主原因であるとの仮定に立ち,バイアスの低減や主観的規範の修正に繋げることを意図して,防災意識・行動に関する質問紙調査を行い,その結果を地域内分布と自己を比較・認知できるように表示し,それらを繰り返すための道具として「個人別減災カルテ」を新たに開発した.本論文では,愛南町の2地区で3年間に亘りパネル調査を行い,2地区ともにコストの高い防災行動の変容にそれら実践の効果が現れたことを述べた. |
著者: | 中林 啓修 |
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論文概要: | 本稿の目的は,在日米軍の施設・部隊が所在する自治体と米軍との防災上の協力や連携の状況を明らかにすることで,在日米軍による日本国内での災害救援(国内災害救援)の課題とその改善に向けた方向性を自治体の立場から明らかにすることである.そのため,自治体と在日米軍との防災上の連携・協力について把握すること目標に,郵送による質問紙調査を行なった.質問紙調査では,協定や訓練の状況,自治体側の期待,課題認識などの設問を通じて,在日米軍施設・区域が所在する自治体が地域の米軍と防災面でどのような関係性にあり,連携・協力をどのように認識しているのかを明らかにすることで上記の目標達成を試みた. |
著者: | 上岡 洋平 |
共著者: | 田中 聡,阿部 郁男 |
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論文概要: | 2016年熊本地震では2回の連続した地震が短時間で発生したため、本震前の詳細な被災状況が明らかにされていない。本研究では、複数の航空写真を用いて目視判読を行い本震前の被災状況を再現し、その判読精度について検討した。さらに、本震後の倒壊建物と比較し本震前の応急危険度判定調査における有効性について検討した。その結果、本震前の被災状況を可能な限り再現することができた。また、本震後に倒壊した建物の多くが本震前に何かしらの被害があることが明らかとなり、本震前の応急危険度判定は有効であるといえる。 |
著者: | 小阪 尚子 |
共著者: | 東田 光裕,前田 裕二,伊東 昌子 |
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論文概要: | 災害など危機事象が発生した場合、自治体の担当者は業務マニュアルに従って対応する。一方で、マニュアルにない事象が発生した場合、参考となるのは過去の災害対応経験や対応記録である。しかしながら、これらの資料が効果的に活用できる形式で蓄積されていないのが現状である。そこで、本研究ではこのような過去の経験を、体系的に整理し、利活用可能な状態で蓄積するための記法の提案を行った。 |
著者: | 高橋 和行 |
共著者: | 扇原 淳 |
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論文概要: | 平成25年の災害対策基本法の改正では、高齢者や障害者など災害時に特に配慮が必要な者に関する避難行動要支援者名簿の作成が地方自治体に義務付けられた。本研究では、すべての地方自治体を対象に、名簿の作成や運用状況に関するアンケート調査を行った。その結果、名簿の整備・管理・共有の状況は、運用基準によって多種多様であった。作成後の名簿情報の外部共有先として、警察や地域包括支援センターまで共有している自治体も見られた。平常時から名簿情報を活用した見守りが展開されることが望ましいが、個人情報に関する理解や地域のマンパワー不足などの課題があることも分かった。 |
著者: | 大原 美保 |
共著者: | 徳永 良雄,澤野 久弥,馬場 美智子,中村 仁 |
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論文概要: | 滋賀県流域治水推進に関する条例(流域治水条例)は,水害に強い地域づくりを目指して,宅地建物取引時における宅地建物取引業者(宅建業者)による水害リスク情報提供の努力義務を課している.本研究では,我が国初めての先進的な取り組みであるこの努力義務に着目し,滋賀県内の水害リスク情報の提供状況や提供時の課題等を把握することを目的として,滋賀県内の宅建業者を対象としたアンケート調査を実施し,275社からの有効回答を得た.この結果,努力義務の認知度と情報の提供状況,提供している情報の内容などの現状と情報提供を行う上での課題を把握するとともに,今後の更に効果的なリスク情報活用に向けた改善策の提案を行った. |